釣った魚に注意
今回は生食で起きやすい食中毒についてお伝えします。腸炎ビブリオは、日本人が発見し命名した唯一の食中毒細菌です。原因食品の多くは海産魚の生食で、刺し身、すし、たたきなどです。
この食中毒の発生件数は1960年代以降2000年ごろまでほぼ毎年トップでした。多発した原因には、菌が夏の沿岸海水に生息していて魚に付いていること、日本人が生の魚を好むことなどの他、菌の増殖が極めて早いことがあります。1グラム当たり10個の腸炎ビブリオが付いている刺し身を夏の室内に2時間放置すると、菌数は4万個になり、一切れ(10グラム)食べただけで食中毒になる可能性があるというわけです。
この菌のもう一つの特徴は、塩が無いと増殖できないという点で、魚を調理したまな板を用いて作った白菜の浅漬けや、低塩分の塩辛でも食中毒が起きています。
国が01年に流通時の温度管理などの対策を策定した効果が大きく、発生は激減しました。近年は報告が無くなっていますが、自分で釣った魚では今も注意が必要です。
腸管出血性大腸菌の食中毒では、11年に焼き肉チェーン店のユッケで5人が亡くなりました。牛の肉やレバーは汚染されている可能性があることから、肉の生食は食品衛生法で規制され、レバーの生食は禁止されています。
カンピロバクター食中毒は現在も多発しています。原因の多くは鳥刺しやささ身の生食、加熱不足の焼き鳥などです。ニワトリの腸内や胆汁、肝臓には菌がおり、解体時に肉に移りますし、少数の菌で食中毒を起こします。生食は厳禁で、飲食店が衛生管理に気を付けていれば食べられるというものではありません。
このように食品ごとに関係の深い食中毒菌がある程度決まっています。その関係を理解することも、食中毒防止に役立ちます。
(藤井建夫・東京家政大客員教授、イラストはスギウラフミアキ)