石川県七尾市は、テレビアニメや実写映画にもなった人気漫画「君は放課後インソムニア」(君ソム)の舞台として知られる。能登半島地震では、作中に登場し、ファンの「聖地」になった実在の店舗も被害を受けた。心配する声も飛び交う中、店主らは「雰囲気をそのままに復活させたい」と前を向いた。
君ソムは、不眠症(インソムニア)の悩みを共有する高校生男女の交流を、天文部の活動を通して描く青春漫画。七尾市内の街角にある薬局や、昭和レトロなゲームセンターなどが丁寧に描写されており、ラッピングバスが市内を走行、「聖地巡礼ツアー」も行われた。
1月下旬、聖地の一つで、1953年創業の喫茶店「中央茶廊」を訪れた。映画のロケにも使用された店内は、割れたガラスが散乱し、天井の板がずれている。
だが、3代目マスターの窪丈雄さん(57)は「カウンターの照明や壁のタイルは無傷。聖地としての雰囲気を壊さずに直したい」と前向きだ。現在は無事だった焙煎(ばいせん)機を使ってボランティアにコーヒーを振る舞うなど、「できること」をしている。
「気持ちは『どうしよう』から『どうにかしよう』に変わっている。いつまでも被災者じゃいられない」。未来を見据え、そう語った。
君ソム登場人物も通っていた「お好み焼 平野屋」は1月16日に営業を再開した。ただ、店を切り盛りする杉本祐一さん(45)によると、断水の影響で、他のメニューより水を使う焼きそばは提供できない。海鮮を使った料理も、市場が開くまでは難しいという。
「出せるのは普段の3分の1程度」。そうこぼした杉本さんだったが、作中に登場する、とろろをかけたお好み焼き「白雪姫」は健在で、「再開を知ったファンが訪れ、励ましてくれた」と笑顔を見せた。
「負担は大きいが、皆さんに温かいものを食べてもらいたい」。割れた電球カバーや壁のひび割れなど、地震の痕が残る店内で腕を振るっていた。