温かい

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  • 2024年1月27日
温かい

  方言に関心がある。特に東北弁。自分の北海道なまりへの自覚はもちろん、ある。「な~んもなまってないべや」と、しっかりなまっている。158回芥川賞を受賞した若竹千佐子さんの小説「おらおらでひとりいぐも」を、久しぶりに読んだ。やっぱり温かくて、懐かしい。

   子どもの頃に「おら」を「わたし」と言い換えた時の違和感の説明が冒頭にある。「気取っているような、自分が自分でねぐ違う人になったような」違和感。夫の急死、自分が独りで暮らしていく意味、疎遠になった2人の子どもとの関係などが、故郷・岩手県の言葉を使ってつづられている。同県からの開拓入植者が北海道の山中や海辺に持ち込んだ言葉なのか、親しみを感じ何度も読み返す。

   北海道弁「らさる」への言及もある。食わさる、言わさる、書かさるは、北海道独特の無責任受動体。すんなり使いこなす人はずいぶん少なくなった。作者は「受け身、使役、自発が微妙に入り混じった言葉。背後には、自分ならざる者の存在がある」。なるほどと思わさる。

   テレビから聞こえる能登半島の人たちの言葉の中に、少ししか方言が混じらない。よそ行きのおとなしい共通語が中心だ。伸び伸びとした大らかな能登の言葉を聞かれる日はいつになるのか。(水)

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