昨年4月、約20年間勤めた苫小牧市役所を退職し、仕事と私生活の両立支援や人材育成などを手掛けるコンサルタント会社を興した。
子育ても家事もお母さんがするのが当たり前―。そんな考えにとらわれ、ワンオペ育児と仕事の両立に苦しんだ過去。市職員の仕事は忙しくても充実していたが、「自分の経験を生かし、悩んでいる人の力になれれば」と考えての決断だった。
苫小牧市出身。苫小牧東高校を卒業後、市役所に入った。24歳で結婚し、2年後に長女を出産。育児休業を経て、約1年後に職場復帰した。
復帰後の生活は想像以上に過酷だった。初めての育児への戸惑い、次々と押し寄せる家事、残業しなければ終わらない仕事…。部分休業制度を利用して出勤時間を遅らせたが負担が減るわけではなく、早朝4時に起きて家事をこなしてから出勤し、夜遅くまで仕事をするという日々が続いた。
「お母さんなんだから、頑張らないと」。必死に頑張ったが、出口のないトンネルの中にいるようなつらく孤独な毎日。当然のように限界が訪れ、大切な娘の愛し方も分からなくなるほどぎりぎりの状態まで追い詰められた。「もうこのままでは無理」。夫に思い切って打ち明けると、驚きながらもすぐにつらさを理解してくれ、乗り越える方法を2人で考えた。
このタイミングで、第2子の妊娠が判明。みんなが幸せな家庭をつくるには―。夫と何日も話し合いを重ねた末、自分が働きに出て家計を支える”大黒柱”となり、夫が家庭に入って家事や育児を担う”主夫”になるという選択に至った。
「自分も夫も男性は外で働き、家の仕事は女性がするものだと思い込んでいた。でも家族の数だけ、さまざまな形があっていいのだとその時に初めて気が付くことができた」。
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市役所では職員の給与や住民課の窓口業務などを扱う部署を経て30歳ごろ、人事・研修部門に配属され、職員の採用や人材育成に携わる業務に携わっていた。第2子の妊娠・出産もこの部署にいた頃。夫のサポートで仕事に集中することができ、国家資格のキャリアコンサルタントを取得した。
学びを深めるうち、自身の生き方を見詰め直す時間も増えた。次第に、過去の経験を生かした仕事への意欲が高まり、昨年春、慣れ親しんだ職場を離れて「株式会社ライフキャリア・プラス」を市内のぞみ町に設立した。
立ち上げた会社では女性の起業サポートや、市の事業に関わって女性の再就職を支援するなど、自分らしい生き方を探す手伝いに力を注いでいる。その中で知ったのは、”思い込み”や”当たり前”にがんじがらめになり、苦しんでいる女性が少なくないということだ。
「人生で大切なのは納得感。すべての人が自分らしく、納得して生きられるよう、多様な選択が認められる社会をつくりたい」。新たなチャレンジは始まったばかりだ。
(姉歯百合子)
※終わり