「手に取って必要だと思ったら残して。触って『ときめく』かが大事」
昨年12月、苫小牧市新中野町のバー。ウイスキーボトルなどで雑然とした棚の整理を始めるに当たり、片付けコンサルタントを依頼してきた経営者の男性(41)に、そうアドバイスした。
著書「人生がときめく片づけの魔法」で知られる掃除のカリスマ「こんまり」こと近藤麻理恵さん考案の片付けスキルを学ぶレッスンを手掛ける。
この日、男性は5時間のレッスンで店内の食器や酒瓶などを次々と整理。カウンター周りをすっきりさせ、「片付けようがないと諦めていたが、(きれいにできて)気持ちが軽くなった」と喜んだ。
静内町(現新ひだか町)出身で町内の高校を卒業後、地元の競走馬の総合商社に就職し、24歳で結婚。順調な人生を歩んでいたが転機は突然訪れた。2018年9月の胆振東部地震で信頼していた同僚の男性が命を落とした。「仕事ができる50代。周りから慕われ、多趣味で人生を楽しんでいるように見えた」と悼みながら「自分が今、死んだらきっと後悔する」と、改めて自分の人生と真剣に向き合うようになった。
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数年前にテレビ番組で偶然、目にしたこんまりの片付け術が頭をよぎった。とにかく相手を信じて寄り添い、こちらからジャッジせず、問い掛けるコンサルタント手法に感動したことを思い出した。著書を参考に実践した整理収納術で職場や友達の家を片付け、感謝された経験も忘れられず自分には何も特技がないと思っていたが、人の役に立ててとても自信になった。「これを仕事にしたい」と思うようになった。
コロナ下の21年にこんまり認定のオンライン講習の受講を始め約2年かけてコンサルタント、ビジネスコーチそれぞれの資格を取得。独り立ちへ昨年5月、16年間勤めた会社を辞めた。同年10月には両親と一緒に苫小牧へ引っ越し、昨年9月に起業。個人や企業からの依頼に対応し、道内各地に出向く日々だ。
レッスンは個人との対面型で基本3時間2万2000円からと決して安くはない。それでも口コミで利用者が着実に増え、これまでに30、40代の女性を中心に約30人を指導した。「親子で受講した家庭では、小学生の子どもに散らかっていた自室を片付けさせることに成功。その後も片付けの習慣が定着し、親も驚きを隠せない様子だった」と笑顔。「(レッスン料が)高額でも申し込む人はやる気があって、のみ込みも早い。一度身に付くと一生、使えるメソッド」と強調する。
もともと苦手意識があった片付けが自分にとって何が大切かを気付かせた。自己肯定感も高まり「1人でやっていく苦労はあるが、大好きなことを仕事にでき、毎日が充実している」と目を輝かせる。
情報過多の時代。「本当に好きなことを見つけるのに、苦労している人が多いのではないか」。自分を大切にするための手段の一つとして、片付けのスキルを多くの人に伝えていきたいと思っている。
(河村俊之)