白老町大町2の喫茶休養林が、23日で開店45周年を迎える。同店はJR白老駅周辺に立地する最古級の純喫茶。店主の相吉正亮さん(84)は木彫家、一緒に店を切り盛りする妻の京子さん(83)は俳人であることから、文化人や芸術家が町内外から訪れ、文化サロンとしての役割も果たしてきた。「(自分の)活動を見守り続けてくれた」というアイヌ民族文化財団の野本正博副理事長(60)をはじめ、多くの常連に愛されている。
同店は、氷の貯蔵庫などとして使われていた旧相吉倉庫を改装して1979年1月に開店した。
建物は今年で築91年となり、1階天井の骨組みには国鉄白老駅から白老川河畔のマクンベツ(現・町緑町付近)まで北西に延びていた砂利専用線(68年まで運用)の鉄路を使用。梁(はり)や柱、机やいすに至る木製調度品は全て正亮さんが手掛けた。店内には苫小牧市の洋画家、鹿毛正三氏(1923~2002年)が描いた旧白老駅前の風景画などが飾られている。
店には木彫作家や画家など、さまざまな芸術家や文化人が来店。開店年には地元の文芸団体「白老ペンクラブ」の林義実初代会長(1921~88年)が訪れ、「月1回の例会をここで行いたい」と申し出た縁で例会の会場となった。文化サロンとして一翼を担うようになり、京子さんが香湖の俳号を持つ俳人となるきっかけにもなった。
北海道の養護学校を舞台とした1996年の映画「学校2」の試写会が白老町で開かれた際は、山田洋次監督が訪れて正亮さんが調理したイカの刺し身を味わった。90年代の初めにゴルフ場建設が全道的な問題となり、正亮さんらが町内に建設予定のゴルフ場で反対運動を展開した際は、作家の立松和平氏(1947年~2010年)が激励に来店してくれたことも思い出深いという。
2010年ごろからは隔週土曜に地域交流の一環で歌声喫茶も始まり、昔を知る高齢者を中心に参加者がハーモニーを響かせている。
歌声喫茶の参加者で開店当初から通う森久美子さん(75)=苫小牧市柏木町=は「なくてはならない場所」と笑顔を見せる。常連の田邊あけみさん(67)=町高砂町=は「『ただいま』と帰れる大切な場所」と話し、藪田勲さん(69)=町大町=も「おいしいコーヒーを一日も長く入れてほしい」とエールを送る。
アイヌ民族文化財団の野本副理事長は「22歳の時、静内のアイヌ文化伝承者、織田ステノさん(1902~94年)を店で迎えてからのお付き合い」と振り返る。白老文化観光推進実行委員会の中村諭事務局長(66)は「店は夫妻や常連からいろいろなことを学べる場所」、正亮さんと環境保全活動をするヨコスト湿原友の会の中野嘉陽会長(83)は「自然と文化の発信、交流の場。集い、語り合う中で力が湧いてくる」と語り、いずれも大切な場所として位置付けている。
45年を振り返り、正亮さんは「続けて来られたのは常連さんたちに恵まれたことに尽きる」と感謝し、京子さんは「年齢も立場もない中、人とのお付き合いでやってこられた」と語る。
23日は夫婦や近親者で静かに迎え、記念行事は予定していないという。