2022年の春、白老町に引っ越してきたばかりの頃、お隣のご夫婦から、町内にあるお店のうわさを聞きました。「”かのうち珈琲さん”のコーヒー、めっちゃおいしいよ!」
早速向かってみると、萩野の団地エリアの奥にぽつんと立つ小屋のような建物が、お店になっていました。明るい店内に入ると、迎えてくれたのは、紳士なたたずまいで静かにコーヒーを入れる白髪の男性。何となく緊張しながら、ブレンドコーヒーを注文しました。一口すすると、深い苦味とこくがあり、澄んだ後味が鼻を抜けます。コーヒーのおいしさに、初めて感動した瞬間でした。
お店について伺うと、店主鹿野内賢士さんの名字から、「かのうち珈琲」というネーミングにしたと言います。店内に置いてある本や雑貨は、奥さまの趣味だったりするそうです。コーヒーの味はもちろん、鹿野内さん自身の温厚なたたずまいや気取らないお店のスタイルもすてきで、一気にファンになってしまいました。
昨年2月、自分のお店「またたび文庫」で開催したマルシェイベントに、かのうち珈琲さんをお呼びした際は、町内外からファンの方がいらっしゃって大盛況でした。終了後、お礼を伝えると、「いやぁ、両手でドリップできるように修業しますね」と冗談まじりの謙虚な言葉を返してくださいました。
人の良さは味の良さにもつながる。私も実直に本屋を続けていこうと、一人しみじみ思った瞬間でした。尊敬できるお店が近くにあるのは、とても心強いです。
(またたび文庫店主・白老)