17日に発生から29年を迎える阪神大震災でも、今回の能登半島地震と同様に介護が必要な高齢者らの2次避難が課題となった。神戸市北区の特別養護老人ホーム「六甲の館」の施設長溝田弘美さん(59)は当時の経験をきっかけに、災害に強い施設づくりを進めている。「2次避難所となり得る福祉施設は、いざという時のため日ごろから防災対策を考え、実践することが重要だ」と訴える。
最大で31万人を超える避難者が出た阪神大震災で、神戸市は1995年1月の地震発生から数週間たった頃、避難所で衰弱した高齢者を福祉施設に移し始めた。溝田さんの母典子さん(86)が施設長だった六甲の館も、要介護の高齢者10人以上を受け入れた。
食事やトイレなど日常生活で介護が必要な高齢者にとって、避難所での生活は厳しい。溝田さんも受け入れた高齢者の介護を手伝う中で、避難生活が長引く大災害では、福祉施設が2次避難所として大きな役割を果たすことを実感した。
「災害に強い老人施設をつくらないといけない」と感じた溝田さんはその後、日米の大学院で高齢者福祉などを研究。米国では現地の日本人高齢者向けに医療情報を提供する団体の設立にも関わった。2006年に帰国すると六甲の館の職員となり、12年に施設長に就任した。
阪神や東日本大震災では、犠牲者の約半数が高齢者だったことなどから、施設の災害対策を強化。発電機や貯水槽のほか、屋外の炊事場を整備し、ライフラインが停止しても1週間以上施設機能を維持できるようにした。
19年に防災士の資格を取り、他の福祉施設の避難計画策定も支援している。防災対策づくりでは、多様な立場の人々の意見が反映されることが重要だといい、「介護や育児の視点も積極的に取り入れる必要がある」と話す。
能登半島地震では多くの高齢者が避難を強いられ、疲労や衰弱からくる災害関連死も心配されている。溝田さんは「大規模災害では、寝たきりの障害者や高齢者を受け入れる2次避難所の確保が重要だ。災害時に備えて受け入れ準備を進めておくことが、多くの人の命を救うことにつながるのでは」と語った。