手を尽くす

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  • 2024年1月15日
手を尽くす

  焼け野原の映像を見て、胸が苦しくなった。昨年夏、何十年もずっと行ってみたくて、なかなかかなわなかった能登半島の旅を実現させたばかりだった。石川県輪島市の朝市通りは海産物や輪島塗の店が軒を連ねる観光名所。友人と小路をぶらぶら歩きながら、干物や塗り箸を買った。友人は「あの朝市の人たちが―」と言葉を詰まらせた。棚田が美しい模様を描く同市の道の駅千枚田ポケットパークは無残にひび割れ、国道の寸断で多くの人が取り残されたという。

   同県珠洲市ではトライアスロンの大会が行われていた。珠洲市は昨年5月にも震度6強の地震に見舞われ、なんとか開催にこぎ着けた大会だった。全国から参加した選手を沿道の市民が応援し、選手たちが鉄人の走りで地元を元気づけた。「頑張ろう珠洲」のメッセージも送られた。そこにまた、である。

   防災や減災の知恵と準備は自治体や地域社会、家庭で少しずつ積み重ねられてはいる。それでもなお大地震は人の命を奪う。能登半島地震発生から2週間。避難生活で体調を崩すなどして命が失われる災害関連死は13人に上る。地震そのものは防げなくても、災害関連死は手を尽くせば避けられる可能性がある。一人でも少なくするための支援を願う。(吉)

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