難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の依頼を受け、医師2人が患者を殺害したとされる事件で、嘱託殺人などの罪に問われた医師大久保愉一被告(45)の裁判員裁判初公判が11日、京都地裁(川上宏裁判長)であり、同被告側は無罪を主張した。
罪状認否で同被告は「起訴状の通り間違いないが、願いをかなえるために行った」と述べた。弁護側は、被告の行為に嘱託殺人罪を適用するのは憲法が定める幸福追求権に反すると主張した。
元医師山本直樹被告(46)らと共謀し、山本被告の父靖さん=当時(77)=を殺害した罪についても大久保被告は「やっていない」と述べ、否認した。判決は3月5日の予定。
検察側は冒頭陳述で、大久保被告は医療に見せ掛けて高齢者や障害者を殺害することに多大な関心を持ち、マニュアルも執筆していたと指摘。嘱託殺人もその実践で、発覚しないよう入念に計画していたとした。
患者の女性は死期が間近に迫った状態ではなく、同被告は病状の詳細を把握することもしていないとして、被告の行為に社会的な相当性はなく、刑事責任を問えると主張した。
弁護側は冒頭陳述で、女性はALS末期で、死にたいという願いを自分でかなえることはできなかったと主張。被告の行為を刑法で処罰すると、女性は「望まない生」を国家によって強いられる結果になると述べた。
起訴状によると、大久保被告は2019年11月、山本被告と共謀し、ALS患者の女性=当時(51)=の依頼を受け、京都市中京区の患者の自宅マンションに出向いて薬物を投与し、急性薬物中毒により死亡させたとされる。11年3月には山本被告らと共謀し、東京都内のアパートで靖さんを殺害したとされる。
事件後に医師免許を取り消された山本被告は、嘱託殺人と殺人が分離して審理された一審で、いずれも無罪を主張。京都地裁は昨年、殺人について懲役13年、嘱託殺人については懲役2年6月を言い渡し、同被告は控訴した。