一昨年10月、札幌市立中学校の1年生の女子生徒が自宅で自殺した。同級生によるいじめが原因だった。市教委は丸2年が過ぎた先日、記者会見を開き、教育長らが厳しい表情で両親に謝罪した。
いじめ事件があると、公開される事実関係の調査報告の「黒塗り」が問題になることが多い。それが被害者を守るものなのか、加害者や家族を守るためのものか、教師や学校の平穏を維持するためだけのものなのか。意図が分かりにくいほどの黒塗りが問題になる。今回の報告書も札幌市長から再調査を求められた。
いじめが社会問題になった頃に聞いたある母親の決断を思い出す。夫は単身赴任で不在だった。中学生になった息子の交友関係が気になっていた。やがて、近所からそれとなく、学校でいじめが広がっていることが聞こえてきた。被害者や加害者の名前も聞こえて来るようになった。「もしや―」と思っていた母親は、ある日、決心をして息子に声を掛けた。「もし、お前がいじめをしているのなら母さんは死ぬから。相手や家族に申し訳がないから死ぬ」。そう宣告した。「母さんは生きていられないんだからね」
息子はもう50歳近く。結婚して頻繁に遊びに来る。子を育てるということ、真に守るということの難しさを思う。(水)