11月4日に苫小牧明倫中学校を主会場に行われた市の総合防災訓練。地域住民が続々と訪れる中、運営を手伝う同校ボランティア部の生徒が忙しく、いすを追加で体育館に運んでいた。市は参加する住民を約200人と見込んでいたが、最終的に350人ほどに膨らんだ。3月に改訂した津波ハザードマップ(災害予想地図)の検証を兼ねた訓練。多くの関心が集まり、住民が抱える不安の一端も伝わるようだった。
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ハザードマップの改訂作業は2021年度から約2年間に及んだ。道が21年7月に公表した津波浸水想定は、数百年から千年に一度の巨大地震に備えるため、甚大な被害予測に基づいている。苫小牧の浸水域は前回想定の約1・3倍、1万224ヘクタールに広がった。第1波は地域によっては最短40分で到達し、前回と比べ9分も早まった。海から離れる「水平避難」では逃げ遅れる地域も生まれ、「市内で最大4万人が死亡、避難者は6万2000人」との推計も出された。
これらの状況を踏まえて新たな避難ルートを検討し、市は高い場所を目指す「垂直避難」の観点を打ち出した。「津波避難ビル」を増やすため、民間企業や関係機関に改めて打診し前回の70棟から185棟まで拡大。地域別に全17種類の津波ハザードマップを作成し、5月までに対象地域ごとのマップを市内全戸に配った。
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避難の実効性を高める取り組みを進め、11月の総合防災訓練もその一つとして実施した。災害時は徒歩避難が原則だが、高台に車で逃げる訓練を初めて取り入れ、渋滞発生や車両誘導などの課題を洗い出した。住民を近所の避難場所から明倫中まで自衛隊車両で運ぶ訓練も行い、参加者は避難所開設や運営の手順、備蓄品の使い方を学んだ。
アンケートでは参加者の6割が「避難場所に来るのは初めて」と回答した。市は防災の出前講座を常時受け付けており、23年度は11月末までに57件・参加者累計4275人で、前年度の年間実積(48件・3167人)をすでに上回っているが、訓練などの機会を身近にする重要性が改めて浮き彫りとなった。
勇払で清掃会社を営む山本紘之さん(45)は今年4月、出前講座を依頼し、業種が異なる市内の経営者ら約40人と受けた。改訂版マップも会場に貼り出し、参加者からは「従業員に伝える」との声も聞かれるなど反応は上々。山本さんは「防災の意義をきちんと伝えると、『大事だよね』と共感してもらえることが多い。こうした意識の人を増やすことで、防災力の向上につながるのでは」と指摘。今後も防災に関わり、意識し続ける市民が増えることが望まれる。
(河村俊之)