故郷

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  • 2023年12月23日
故郷

  10年以上前の高校の同窓会でのこと。Sが笑顔で教えてくれた。母親が、ふるさとの高齢者施設で暮らせることになったという。幼なじみも運営に関わっている施設だ。「○○さんのお世話になるんだ」。友達に少しよそ行きの敬語を使って感謝しながら安心した様子だった。

   当たり前のことだが、自分の老いより親の老いの方が早い。50歳にもなると親の老いが気になり始め兄弟や友人との話題になる。読むことのなかった年金や高齢者医療、介護に関する新聞記事を読んだり、福祉施設の入居者募集のチラシを見始めるのもこの頃か。「遊びに来てみないか」と親の意向や家族との折り合いを、それとなく探る。想像の中で親を家のあちこちに立たせたり座らせたり。結局「今住んでいる場所が母さんの最期の場所」と教えて終わり。帰る日、送る車の中で母が言う。「あの町の施設に入るから心配しないで。友達もいるから」。そう言われたときの寂しさと、裏腹の、あの町なら―と思える温かな安心感。

   けさの朝刊を見て、Sの笑顔を思い出した。厚労省の研究所の推計で、ふるさとは2050年に人口が半減する町に入っていた。母さんは元気なのだろうか。「特養 閉鎖の危機。待機者も働き手も減少」。ふるさとも大変なのだ。(水)

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