市民参加演劇(6) 鈴木(すずき) 龍也(たつや)

  • ゆのみ, 特集
  • 2023年12月23日
市民参加演劇(6) 鈴木(すずき) 龍也(たつや)

  2023年11月11日午後4時半ごろ。市民参加演劇祭の客入れ30分前に、舞台上では出演者と全スタッフが集合し、掛け声を上げて気合入れをしてから本番に挑むのが慣例となっている。気合を入れて、本番へ向かう集中力を高めていく。今年は自分も出演者としてここに立つとは夢にも思わなかった。出演者の体調不良による降板劇から怒涛(どとう)の1週間を経て、やっとここまで来た。

   だが、お芝居の神様はまだ試練を与えてくれる。さらに1人、本番1時間前に高熱で倒れてしまった。話を聞くとどうやら出演できる状態ではない。疾風のごとく駆け出し、楽屋へ行き、急きょまだ客席に人の入っていない舞台上に、代表の須藤夏奈子とキャストリーダーの若山一歩、舞台監督の瀬川禎輝を呼び出す。台本を広げその出演者の登場シーンを確認する。いろいろシミュレーションするが、やはりこの役は欠かすことができない。

   また頭をよぎる「公演中止」の文字。一度も中止にしたことのない演劇祭、そしてこの数カ月間、目の前の3人が命を削って過ごしてきた時間を考えると、中止にすることなどできるわけもなく、その場で出した結論は自分がその代役をやることだった。覚悟をもって舞台に関わる以上、演出としても全責任を背負わねばならない。スタッフと、関係するキャストに代役の旨を伝え、シーンの確認をする。

   シーンへの出演のために袖に立つ。トラブルに立ち向かう仲間との連帯感なのか、20年ぶりに舞台へ立つ緊張感なのか、気持ちが高ぶっているのが自分でも分かる。開演まであと5分。

  (舞台演出美術家・苫小牧)

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