2009年度から始まった小学校への出前授業「こころの授業」も、ありがたいことに多くの小学校から声を掛けていただき、これまで実施した授業は500回を、そして参加児童数は1万5000人を超えました。
「こころの授業」とは、苫小牧市内の小学生を対象とした授業で、実際に人為的な要因でけがをした傷病鳥を見てもらうことを特徴としています。そのため、一人一人の子どもたちが間近で傷病鳥を感じることができるように、学年単位ではなく、クラスごとに授業を行わせてもらっています。
授業の中盤、実際に傷病鳥が登場する場面では、いつも子どもたちは驚きを隠し切れません。歓声が上がったり、あまりの近さにのけぞってしまったり。そして、その鳥たちのくちばしや足などの特徴的な体のつくりや動作などをじっくり観察することで、生きものの魅力を肌で感じてもらっています。
近年、インターネットの普及も伴い、世界中のさまざまな貴重かつ珍しい映像や動画などが簡単に視聴できるようになりましたが、鳥を目の前にした時の子どもたちの反応を見ると、やはり「本物」に出合うことの大切さを実感します。そして、こういう生きものたちが、私たちの身近な環境で暮らしていることへの理解にも結び付いてもらえたらと思っています。
また、授業では紹介した傷病鳥をはじめ、毎年多くの野生鳥獣がウトナイ湖野生鳥獣保護センターに運ばれ、治療されている現状を伝えます。そして、野生鳥獣がけがをする背景に、いかに私たち人間社会の構造が関わっているのかを、話します。子どもたちは誰一人として、野生鳥獣がけがをすることを望んではいませんが、その原因を生み出してしまっている自分たちの生活。それを知った時の子どもたちは、切なく、複雑な表情を浮かべます。それでも、そのような事故が繰り返されぬよう、自分たちでも何かできることはないかと、懸命に考えてもくれる姿勢には、頼もしさをも感じます。
「こころの授業」が始まり、15年。この出前授業が、人と野生鳥獣が共生できる環境づくりのきっかけとなれればと切に願いながら、これからも続けていきたいと思います。
(ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)