5月、日ごろから取材などで何かとお世話になっている苫小牧市泉町の池野京子さん(85)から電話を受けた。1月に本紙に掲載された「受け継ぐ平和」という作文を書いた苫小牧東中学校3年生の渋谷ゆうなさんに会いたいので、力を貸してほしい―という内容だった。
池野さんは終戦直後、満州敦化(現・中国吉林省)で起きた集団自決の場にいた。ソ連軍の略奪と暴行から逃れるための最後の手段で、自身も服毒自殺を図った。一命は取り留めたものの、妹は助からなかった。
目の前でたくさんの人が次々と命を落とす光景は心に深い傷として刻まれ、爆弾の中を逃げ惑う悪夢にも長年、苦しめられてきた。戦争を二度と繰り返してはならないとこの経験をさまざまな場で語っており、渋谷さんにも伝えたいとのことだった。
大人でも耳を覆いたくなるほどの池野さんの悲惨な体験談を中学生に聞かせてもいいのだろうか。一瞬、迷ったが集団自決を図った当時、池野さんは7歳。戦争になれば子どもも大人も関係なく犠牲になる。若い世代もその現実を知る必要があると、東中の協力を得て7月、2人が会う機会をつくることができた。
渋谷さんは背筋を真っすぐ伸ばし、真剣な面持ちで池野さんの話に耳を傾けた。後日、渋谷さんは「教科書では学べない事実を知れて良かった」と話していたが、若い心に戦争体験者の話はどう届いたのか、気になり続けていた。
このコラムを書いている最中、うれしいニュースが届いた。渋谷さんが今月9日、東京で開かれた中学生のプレゼンテーション大会で、池野さんとの出会いから学んだことを発表して全国2位に輝いたという。池野さんの心はしっかりと次世代につながっている。未来への希望の光を感じた。(姉歯百合子)