海、山、野の幸

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  • 2023年12月11日
海、山、野の幸

  20年ほど前までに、何度か取材で海外へ行った。欧州、北米とその諸島やアジアの島国―。そのときに日々おなかはすくわけで、食事をするために現地の人が行く食堂にたびたび足を踏み入れた。

   1990年代にオランダの小都市に滞在した際は肉の主菜と一緒に主食としての芋料理をもりもりと食べる人が多く、まねするとおいしかった。米飯が食べたくなると、華僑の経営と聞いた中華料理店でチャーハンに舌鼓を打った。今世紀の初頭に訪れたカナダ東部の港町では、現地で知り合った人らと会食し、貝料理を満喫した。滞在期間の半ばには「和食」が恋しくなり、日本人の母親と息子が切り盛りする小さな食堂へ行って、素朴な「親子丼」にありつけてほっとした。

   今や海外の「日本食レストラン」は著しい増加傾向にあるようだ。農林水産省の今年度発表では約18万7000店に達し、2年前の2割増で10年前の約5倍に拡大。和食は13年に「自然を尊ぶ」日本人気質に基づいた「食」に関する「習わし」として、世界文化遺産登録された。国外での商機到来とはいえ、世界を見渡せば、気候変動や戦乱が食料生産に影を落とす。宴席や家族の夕食会もありがちな師走に、もし和のごちそうを食べるなら、ありがたみをかみしめたい。(谷)

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