この写真は10月31日に撮ったもので、支笏湖漁業協同組合のふ化場から流れ出る水に集まるヒメマスたちです。産卵のために生まれた流れに戻る習性はサケと同じで、特に雄は背が盛り上がり、赤い婚姻色に変化しています。この後、人の手により授精が行われ、2月ごろにふ化し、6月ごろには放流されます。そして、放流から4年あるいは5年たつと再び産卵のために戻ってきます。
支笏湖のヒメマスは、明治期から昭和期にかけて阿寒湖や北方にある択捉島の湖から移植されたのが始まりです。さまざまな困難が生じましたが、多くの人たちの努力で乗り越え、現在の支笏湖ヒメマスがあるのです。
さて、阿寒湖のヒメマスですが、実はベニザケが湖に取り残された(陸封された)ことで生じたと考えられています。時代は一気に氷河期にさかのぼります。今は国外の北方の河川にしか上らないベニザケですが、寒かった当時は阿寒湖につながる川にも上っていました。ところがその後、湖からの川の出口に火山活動により雄阿寒岳ができてしまい、その結果、海との行き来を絶たれてしまったのです。湖とそこに注ぐ川で繁殖する習性を持つベニザケが、海に下りず湖だけで生涯を送るようになったのが阿寒湖のヒメマスなのです。
そして現在、安平川水系の美々川では、支笏湖ヒメマスの幼魚を放流し、海で過ごさせてベニザケを遡上(そじょう)させる事業が昨年度まで行われていました。成熟したヒメマスよりずっと体が大きくて、背中が真っ赤に色づいたベニザケが遡上してくるのです。実は、千歳水族館で9月から11月いっぱいまで、実際に美々川に遡上してきたベニザケの雄が展示されていました。おそらく来年も展示すると思いますので、皆さんお楽しみに。
(支笏湖ビジターセンター自然解説員 榊原茂樹)