市民参加演劇(5) 鈴木(すずき) 龍也(たつや)

  • ゆのみ, 特集
  • 2023年12月2日
市民参加演劇(5)
 鈴木(すずき) 龍也(たつや)

  市民参加演劇の話は前回で終わる予定だったが、思い出深いものになったので、今回も記すことにする。

   苫小牧市民参加演劇祭が終わって数日後、外でふと顔を上げて遠くを見ると、樽前山はすっかり雪化粧をしていた。周囲の街路樹は色彩やかな葉に覆われ始めていたはずなのに、すっかり葉を落とし、枝ばかりになっていた。怒涛(どとう)の公演準備に追われ、周りの景色を見ることさえ忘れかけていた。舞台に関わり始めてまだ20年ほどだが、予想のつかないトラブルに忙殺され、目の前の景色も状況も見えていなかったようだ。

   最初のトラブルは、本番初日の6日前に出演者から入った1本の電話。体調が悪く、病院で診てもらうと「尿路結石」と診断されたという。実行委員会の代表とキャストリーダーに早々に連絡を取るが、6日前に出演者を調達するのは不可能に近い。他の出演者が2カ月半稽古をしてきたものを、実質的には本番まで3日程度で身に付けなければならないことになる。とはいえ、関係者、総勢20人前後が奔走し、直前で中止するのも相当難儀な話だ。

   出した結論は自分が代役を務めること。20年ほど前は俳優として表舞台に立っていたのだ。朝方まで稽古をして、1、2時間寝て仕事へ行き、夕方からまた稽古場へ行く。そんな家庭を顧みることのできない家族に申し訳ない日々が続き、本番当日を迎えた。

   すると、何と今度は他の出演者に体調不良者が出てしまった。早急、代表、キャスト、スタッフと台本を舞台上で広げて打ち合わせを始める。これが、本番1時間前の舞台裏。続きは次回にお伝えする。

  (舞台演出美術家・苫小牧)

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