2030年度までに電力消費に伴う二酸化炭素(CO2)の実質排出量ゼロを目指すモデル的な提案を、環境省が支援する「脱炭素先行地域」に苫小牧市が選ばれた。苫小牧港・西港周辺に広がる工業基地と勇払市街地の脱炭素化を推進し、過疎化や高齢化に悩む同市街地の課題解決も探る計画を立て、三度目の申請でようやく悲願を達成。共同提案者となった地域や企業の期待は大きい。(河村俊之)
「これからが本当の勝負」
環境省の選定は今回が4回目。市は公募が始まった昨年1~2月の1回目から申請している。最初は市有施設に特化した太陽光発電の積極導入を市単独で提案し、ほとんど門前払いで落選した。
計画を練り直すため2回目の応募は見送り、3回目ではモデル地域を設けた上、企業や市民との関わりも意識して民間と共同提案。今年4月の結果は、再びの落選だった。
市も落胆する中、地元企業が「苫小牧は絶対に選ばれるべき」と強く後押し。官民で協議を重ね、住民アンケートで意向も探り、実現性の向上を目指した。
結果、出光興産(東京)やトヨタ自動車北海道(苫小牧市)、北海道電力(札幌市)、勇払自治会など9社・団体の共同提案が4回目にして選定された。
7日に環境省が公表し、同日記者発表した山本俊介副市長は「実現性を環境省にも理解してもらえたのでは」と満面の笑み。一方で「これからが本当の勝負」と気を引き締めた。
15カ所程度に太陽光パネル
市の計画は、西部工業基地の企業に太陽光パネル導入を進め、自家消費のほか、休日などに生じる余剰電力を勇払市街地の一般家庭や公共施設に供給する内容。
市の廃棄物処理施設・沼ノ端クリーンセンター(沼ノ端)の廃棄物発電由来の電力も活用し、さらなる波及を見据える。
発電事業者が無償で発電設備を整えて維持管理する「PPA」(電力販売契約)を採用。太陽光パネル設置は国の交付金も充て、企業15カ所程度に計約1万5000キロワット分を見込む。
企業が安価に電力を購入できるようにし、利益の一部から地域振興費を捻出し、勇払市街地が抱える医療、交通、防災などの地域課題の解決に役立てる。
地域振興のチャンス
同市街地の家庭限定で安価な電気料金や、脱炭素化に向けた補助事業も計画中で、市環境衛生部は「勇払の過疎化対策にもつなげたい」と意気込む。
共同提案者も大きなチャンスと捉える。現在町内約30店舗で構成する勇払商工振興会の佐藤章一会長(43)は「住民の高齢化は深刻。地域振興の面でも期待している。地域と企業のつながりを深める機会にもしたい」と展望する。
トヨタ北海道も「(脱炭素の実現には)自治体や企業の垣根を越えた仲間づくりが重要。お役に立てるよう協力する」と意欲。市は24年度までに実施設計を策定し、25年度から事業を本格化させる考えだ。
脱炭素先行地域
環境省が政府目標に先駆け、地域特性を踏まえて2030年度までに脱炭素化を目指す提案を選定する制度。国の交付金による支援があり、先行地域1カ所当たり最大50億円を支給する。これまで4回の選定で36道府県の計74カ所が先行地域となった。道内では苫小牧を含めて6カ所。