働いた人へ

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  • 2023年11月23日
働いた人へ

  俳優の高倉健さんが83歳で没したのは2014年11月10日。1980年代の昭和期に一度ご本人を見た。東京に居た学生の頃、帰省から戻って千歳発の便を降りた羽田空港で帽子を目深にかぶり、大股の歩みで雑踏を通り過ぎる人がいた。誰かが「あっ、健さんだ」と叫んだ。歓声が起き、当人は衆目を集めて会釈後、場を去った。一昔前の映画館なら修羅場に斬り込む高倉さんを映す銀幕にさえ「待ってました」と客席から声が掛かったと言われた大スターの存在感に驚いた。

   社会人になり、年を重ねて見た数々の名作になぜか感じ入るようになった。訃報の直後、前任地だった千歳で高倉さんと交流した中華店店主に取材した。90年代にシリーズ化したCMの撮影時、高倉さんは同市内に滞在。ご主人は突然店に現れた健さんに、みそラーメンを供した。ロケ合間の日に店のカウンターで並んで撮った写真に目をやりながら、気さくな人柄や談笑した逸話を語ってくれた。

   生涯出演205作中、30本以上が道内撮影という。炭鉱夫、警察官や居酒屋主人など、俳優業半ばから人生の難局に遭いつつも実直に生きるちまたの道民役が多かった。演じる姿は、多くの人に感動を与えた。命日到来の月になると道産子として勤労感謝状を贈りたくなる。(谷)

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