白熊

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  • 2023年11月18日
白熊

  胆振東端の小さな町で育った。卒業した高校の校歌は「日高山並み」で始まっていた。晴れた日の放課後に校舎の裏山に登れば、ほぼ真東に日高山脈の主峰・幌尻岳(2052メートル)の頂上付近が見えた。歌詞に「ここは胆振だぞ」と、やぼな批評をする者はいなかったと思う。

   道東生まれの詩人・更科源蔵さんは各地の古老を訪ねてアイヌの民話や伝説を聞き取り、記録した。著作集「アイヌ伝説集」を開いて、日高や胆振に伝わる温かな伝説の多さに驚いた。「幌尻岳の大沼」では、この山にたくさんの白熊がいたこと、沼には幅の広いコンブがあったこと、何千何万の海の鳥が訪れて冬を越し、春には海へ帰ったことが伝えられている。鵡川町の古老が記憶していた。

   日高山脈一帯の国立公園指定に向けた意見公募(パブリックコメント)が今、行われている。山脈の南端部を除く一帯はすでに「日高山脈襟裳国定公園」として指定されている。今回は南端や十勝側にも区域を広げ、総面積を国定公園の倍以上の24万5668ヘクタールとし国内最大の国立公園とする計画だ。意見公募や中央環境審議会への諮問を経て来年夏頃にも指定される。関係市町村から観光振興などへの期待が集まる。豊かで大らかな北海道を学び直す機会にも、したい。(水)

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