東京にて舞台「リムジン」絶賛本番中である。向井理さん、水川あさみさん主演、倉持裕さん作・演出の作品。本当はコロナで世の中が大騒ぎになりはじめた2020年に本番を迎える予定だったが延期になり、3年たって上演の運びとなった。
劇場のある下北沢駅前には、今やマスクなしの人の方が多い。観劇中、お客さまが声を出して笑える時代が戻ってきてくれたのもうれしい。毎日キャスト7人で励まし合いながら楽しみながら、舞台に立っている。おかげさまで幸せな時間である。
さて、1カ月に及んだリムジンの舞台稽古は大都会新宿の地下の稽古場で行われた。窓のない地下に数時間詰めている。晴れだか雨だか分からない部屋で緊張しつつ身体もこわばってくる。そんな中で、瞬間的に、わたしを癒やしてくれたものがあった。
それは、士別市出身の俳優、宍戸美和公さんの差し入れしてくださったホタテスープとオニオンスープだった。スティックタイプのもので紙コップにサーと入れポットから熱湯を注ぎ、スプーンがないから紙コップを揺らしながら溶かし、待てなくて熱過ぎるうちに口に入れると、口の中がホタテでいっぱいになった。身体中がおいしく温まって、はー、と音に出してため息をつきながら、ホタテの味をオカズに、持参したおにぎりを食べるのが、なんとも至福の時であった。
「宍戸さん宍戸さん」わたしは斜め後ろにいる彼女に話し掛けた。「宍戸さん、すごくおいしいですスープ」「よかったです」「北海道限定なんですか?」「北海道便の飛行機の」「へー!そうですか!今度買ってみよう。宍戸さんの地元の士別というのは、どの辺りなんですか?」宍戸さんは、北海道の絵を書いて大体この辺り、と教えてくれた。せっかく教えてくれたけれど、わたしは翌日忘れてしまった。翌日今度はオニオンスープを飲みながら、士別の位置をもう一度宍戸さんに聞こうかなと思ったけれど、もう少し打ち解けてからにしようと、その日は静かにオニオンスープを楽しんだ。
緊迫した地下の稽古場で休憩になると、「このスープおいしいですね」と飲んだ人が口々に言った。わたしはその光景を見るのがとても好きだった。北海道を褒められるのが、とても好きなのだ。北海道のホタテはやっぱり違うのだよ。北海道最強!(愛知県出身ですけど)(タレント)