第58回夏休み読書感想文コンクール (4) 中学生の部・最優秀賞 辞書から学んだこと 苫小牧沼ノ端中3年 海沼(かいぬま) 来伽(らいか)さん

  • 夏休み読書感想文コンクール, 特集
  • 2023年11月10日
第58回夏休み読書感想文コンクール (4) 中学生の部・最優秀賞 辞書から学んだこと 苫小牧沼ノ端中3年 海沼(かいぬま) 来伽(らいか)さん

  「辞書」といったらどんなイメージを持つだろうか。重くて、古い? デジタル化が進む時代にアナログ感マックスの辞書はマイナスのイメージが強く根付いてきているのかもしれない。スマホならキーボードで変換すると誤った漢字の使い方には滅多にならないし、ましてや調べたいことをスピーディーに検索することができる。

   辞書は、どのページを開いても字で埋めつくされていて、正直、人間味が感じられず、この物語に出会うまでは、辞書をつくる人達の気持ちなど、ちっとも考えたことがなかった。辞書よりスマホと思っていた。そんな辞書に対する私の考えを覆したのが「舟を編む」だ。舟なのに、なぜ「編む」という表現の仕方なのか、最初は不思議でならなかった。

   この物語は、「大渡海」という辞書を創り上げていく道筋を人間関係や辞書作りに関わる人々の葛藤とともに辿っていく話である。物語は様々な人の視点から繰り広げられていくが、話の中心にはいつも馬締(まじめ)の存在がある。馬締は変人たちの集まりともたとえられる辞書編纂(さん)チームのなかでもひときわ異彩を放ち、ワードセンスから行動まで、どこをとっても不思議な人物だ。そんな馬締を中心にした辞書の作成過程は、この世に無限にあるように感じられる言葉を丁寧に掬(すく)い上げ、その意味を深く、重く考えていく。そして、私たちの生活の変化に応じて、新しい言葉を取り入れ、古い言葉を削除していく。今、この瞬間にも新しく生まれている言葉を捉える。ということの繰り返しだ。この作業は、決して楽とは言えず、私には果てしなく感じられ、到底できないだろうと思った。普段、会話をする中で気付くことは少ないが、言葉は発音が同じでも、時がたつにつれて、意味や活用方法が変化しているそうだ。言葉について考えれば考えるほど、その難しさと辞書の編纂に関わる人々のすごさが身に染みた。登場人物の会話の中には、言葉の重要性や可能性、言葉の難しさや素晴らしさを感じさせる内容が多く含まれているが、特に私の心に強く残った一節がある。

   「香りや味をきっかけに、古い記憶が呼び起こされることがありますが、それはすなわち、曖昧なまま眠っていたものを言語化するということです」。

   これは馬締に影響を受けた人物がいった言葉だ。私は今まで記憶は脳内で映像のように流れるものだと思っていた。「思い出す」という動作の中枢も言葉だったなんて、初めは本当に驚いた。記憶=出来事の言語化など、日常の中で気付くことはなかったと思う。

   さらに読み進めていく中で、当然のことだが、辞書は編集社のみで作成されているわけではない。沢山の言葉をまとめる辞書の厚みをいかに薄くするか、紙の素材を専門会社と相談する。言葉の意味が本当にふさわしいか、学者に確認する。掲載する字体があっているか綿密にチェックする。まさに、「縁の下の力持ち」の存在が欠かせず、一冊の辞書に様々な人の計り知れない思いと努力が詰まっているということを実感した。そして辞書づくりに関わる人々は一丸となって編纂に取り組む。そこで初めて、本の題名が「舟を編む」という表現なのか、私の中で疑問に思っていたことが一つにつながった。

   辞書は、小説などと違い、編集にとても時間がかかるため、途中で諦めることはできない。この本に出会ってから、辛くて何かを諦めたくなったとき、物語中の辞書をつくる人達が頭に浮かぶことが増えた。辞書をつくる人達は、十年以上も一つの目標に向かって歩み続ける。私も、目標に向かって、今できることを全力で挑んでいきたい。

   そして、この物語を通して辞書から生まれる言葉の重みを学ぶことができた。最近はSNSで友達や家族と連絡を取るが、文面上だと相手の感情が分からないということが少なくない。相手に気持ちを率直に伝えるために言葉の選択が大切だと改めて気付かされた。言葉は人を喜ばせることができ、人を傷つけてしまうこともある。私も、言葉の選択で人を笑顔にできるかもしれない。

   言葉のボキャブラリーを増やすために、気持ちを相手に丁寧に伝えるために、私は辞書を引く機会を増やしていきたいと思う。

  (終わり)

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