「M―1(日本一の若手漫才師を決める大会)に出たことがあるんです」と言うとすごいことのように聞こえるが、実は1回戦は応募さえすれば誰でも出場できる。事務所や養成所などに所属する芸人に紛れ、僕は一度だけステージに立った。これもまたすごいことに聞こえるが、観客の爆笑を生んだかどうかは別の話。自分たちのネタの終盤、換気扇の回る音がやけに大きく聞こえたのを覚えている。笑い話の一つとして今は語るが、類ない熱中の時間だったと振り返る。
当時の相方は学生時代の友人。彼はその後養成所に入り、今は事務所に所属する芸人となった。テレビやラジオに出演し、毎週茶の間を沸かす芸人は一握りだが、そんな厳しいお笑いの世界で最近、めきめきと実力でのし上がってきている。時々オンラインでライブをのぞくと、彼は楽しくて仕方がないという表情をしている。どんどん勝ち上がっていく賞レースの結果や、いつかと違って会場をどかんと沸かすネタ以上に、生き生きした熱中の表情に何より刺激を受けている。彼を見て「負けていられるか」といつも思う。
公営塾「よりみち学舎」に通う生徒たちは高校生。正しいことばかりにとらわれなくていい、笑えるような失敗も後悔するような間違いも一つでも多く経験してほしい。そのすべてがいつか青春や熱中と呼ばれる時代になるなら、そこで出会った仲間は掛け替えのない存在だ。どれだけ場所や時代が変わってもその存在は、いつも自分を熱く駆り立てる一生のライバルになるから。そういう仲間が一人でもいることはきっと、すごいこと。
(厚真町地域おこし協力隊)