大正時代には、西洋美術を受容した芸術家たちが、改めて東洋の伝統的な価値観に目覚め、日本的な情感を作品に表現しようとする画家たちが現れます。
その代表的な画家であり、極めて特異な存在感を放つのが小杉放菴(1881~1964年)といえるでしょう。写実によらず、画家の心情や自然に身を委ねながら、その本質を捉えようとする表現方法には、東洋と西洋、伝統と革新に揺らぐ日本近代美術のありようもうかがい知れます。
《新緑写意》は、大正6(1917)年4月に小杉が初めて中国を旅行した時の心象風景を描いたものとされています。油彩ではありますが、下地が透けるほどに薄く延ばされ、水墨画に通じる筆触の味わいがあるでしょう。
一方で左の人物を除くと、アンリ・マティスなどフォービスムの画家たちの描く田園風景とも見まがうような色彩感覚もうかがえます。「写意」とは、現世の形骸に捉われず、自らの心に抱く理想郷を表すという伝統的な山水画の中心的な命題です。本作からは、西洋の新潮流を東洋的に解釈しようとする意欲が見て取れます。
(苫小牧市美術博物館主任学芸員 立石絵梨子)