冬支度

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  • 2023年11月6日
冬支度

  苫小牧では4日に大規模な市総合防災訓練があった。天災は忘れた頃にやって来る―。心しておくべき警句は物理学者で随筆家の寺田寅彦が残した言葉と言われる。石井正己・東京学芸大名誉教授による本紙連載、1日付「文豪たちの関東大震災」で、その寺田が100年前にした思案が解説されていて興味深かった。

   寺田は大震災前に、もし電気の途絶が起きたら社会がどうなるかの想像を随筆「石油ラムプ」に記した。〈人々が脆弱(ぜいじゃく)な文明を信頼し過ぎていることを批判した〉と石井氏は文意を解読。〈ガス・水道・電気が止まって狼狽(ろうばい)することがあっても、しばらくすると忘れてしまう。こうした人間の心性は今も変わらず、寺田の指摘は時代を超えて意義を持っている〉とした。

   先月、「文明」を少し離れてキャンプ達人の友と野営場で1泊した。夜は電池式ランプを明かりに、可搬型薪ストーブで温めた食事を取った。この時期のキャンプは人生初。テント内で目覚めた朝の最低気温は5度台で中厚手の寝袋から露出した顔が寒かった。達人から「じゃあ今度は1月か2月に」と次回野営に誘われ、一瞬ためらいつつも参加を決めた。余暇のささやかな防災自主トレと思いなし、冬のキャンプ当日を想像中だ。(谷)

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