きのうの新聞各紙の「袴田さん再審無罪」の記事を、繰り返し読んだ。1966年の静岡県・一家4人殺害事件。死刑が確定した袴田巌さん(88)に、26日午後、静岡地裁で無罪が言い渡された。
テレビニュースには3歳年上の姉、ひで子さんの「裁判は終わったわよ。あなたが勝ったのよ」という自宅でのやりとり。刑執行の恐怖との戦いの中で表情も言葉も失った袴田さんに「かすかに表情が戻り始めた」と話す支援者がいた。
再審無罪の根拠は、犯行時の衣類や自白、証拠が捜査機関による捏造(ねつぞう)と認定されたことだ。検察側にとっては無念に違いない。しかし控訴の検討に当たっては、58年という時間がどれほど長いものかぜひ考えてみてほしい。
「袴田事件 神になるしかなかった男の58年」(青柳雄介著、文春新書)に事件が発生し、袴田さんが逮捕された当時の浜松市や家族らの様子が紹介されている。嵐のような取材で家から出られない日々。逮捕当日、家族は異なる警察署へ連れていかれた。陰口が耳に入ってきていた。逮捕時の新聞記事の切り抜きが差出人不明で郵送される嫌がらせも1度や2度ではなかった。「せめて、最期だけは自宅の畳の上で死なせてやりたい」。それが、姉・ひで子さんの願いだ。(水)