見慣れた黒板やロッカーが移動される様子を見て、遠い日の記憶が、まるできのうのことのようによみがえってきました。20余年前、不安と期待が入り交じる心持ちで、苫小牧高専の門をくぐった日のことを。学力的には決して余裕があったわけではありません。それでも、幼い頃に家族が買ってくれたパソコンへの好奇心が、僕を情報工学科への道へと導いてくれました。
合格の喜びもつかの間、待ち受けていたのは7年間の苦闘の日々でした。専門知識の習得、実験リポートの執筆、卒業研究や専攻科研究など、幾度となく壁にぶつかり、そのたびに必死になって取り組みました。
その後、縁があり、2年前に古巣へ戻りました。卒業した母校の情報工学科は消え、「創造工学科」へと姿を変えていました。しかし、情報科学・工学系という形で残されていることに、安堵(あんど)を覚えたものでした。
今は、校舎の改修が始まっています。僕が青春の多くを過ごした「学びや」が、新しい姿へと生まれ変わろうとしています。人工知能やIoT(モノのインターネット)の台頭により、かつての情報工学科の領域がさらなる進化を遂げようとしているように。
懐かしさと寂しさが入り交じる中、僕は新たな決意を胸に秘めています。かつて指導教官から受け継いだ知識と情熱を、次世代の技術者たちへと伝えていくことを。専門家としての誇りを胸に、全身全霊をささげて彼らを導いていくことを。
何もかもが消えて移ろいゆく学びやを見詰めながら、僕は新たな章を開く覚悟を決めたのでした。8月のお盆の話です。
(苫小牧工業高等専門学校准教授)