「苫東地域が(企業立地などで)動いていることを、どうやって市民に伝えていくのか。大変重要なことだ」
株式会社苫東の辻泰弘社長は、地域との関わりに重きを置いている。創立から25周年を迎える同社だが、旧会社の破綻、清算、そして新会社発足という歴史を経てきた。中でも新会社発足時は「市民も厳しい目で見ていたと思う」(辻社長)と振り返る。
こうした中で起きた東日本大震災。エネルギー問題が国民的な議論になり、苫東にとっても転機の一つになった。太陽光発電に苫小牧が適した場所であることが立証され、苫東にメガソーラー(大規模太陽光発電所)が建設された。これを機にエネルギー関連を含む、多彩な業態の企業立地が進んだ。今年は基礎工事などに入った企業の着工件数は既に5件。苫東域内で働いている人は3800人まで増えた。
立地企業へのフォローにも力を入れる。約70社で構成する立地企業懇話会は、道外からの進出企業が情報過疎にならないように横の連携を図る。住宅団地の紹介や「冬季の車の運転方法」などの研修会も企画している。株式会社苫東が進出企業にも地域とのつながりを大事にしているという「姿勢を分かってもらえる」機会になっている。
地域密着をソフト面から取り組んでいるのが「苫東インダストリアルパークフォトコンテスト」(苫東フォトコンテスト)。今年で20回目を迎える。苫東地域を題材にして市民がシャッターを切る。作品はカレンダーや絵はがきになり、苫東のアピールに一役買う。立地企業にも配布しているが「評判がよく、毎年待ちわびている人もいる」という。
昨年は高校生対象のフォトツアーも企画。若い感性が被写体の変化にもなり、それが苫東のさまざまな動きに通じるものもある。
地域とのつながりでは、とまこまい港まつりへの参加も継続している。市民おどりへの参加のほか、祭り会場に「PRブース」を開設。展示物が中心だが「ようやく市民の仲間として認めてもらうようになり、動きを見せられる苫東になった」(辻社長)と感慨深い。市街地で開催されていたとまこまいマラソンが苫東エリアで行われていることも「市民と共にとの観点からもうれしい限り」と歓迎する。大会への参加を立地企業にも呼び掛けており「苫東を知ってもらう機会になっている」。今年も社員がコースの一部で清掃活動し、大会への受け入れに協力した。
苫東は豊かな自然の利活用でも地域との結びつきが強い。約3000ヘクタールの緑地のうち、2200ヘクタールは森林だ。間伐を含めた森林の整備計画を森林組合と協議しながら作成中で、つた森山林をモデルにし、5年がかりで整備する計画だ。
森林は間伐をしないと「山が荒れる」要因にもつながる。2018年の胆振東部地震の際には厚真町の山林が「山腹崩壊」を起こすなど「一度、災害に遭うと復元には相当の時間がかかる」。
07年には、天皇陛下をお迎えした工業団地としては初の「全国植樹祭」をつた森山林で挙行し、今年5月には市民も参加する北海道植樹祭を苫東・和みの森で開催。植樹から育樹、そして間伐にも力を入れながら森林保全を進めている。
市民がエキストラして参加する映画などのロケ地としても苫東は適地だ。これまでも、苫小牧出身の三部けいさんによる漫画作品「僕だけがいない街」(ネットフリックスでドラマ化)や映画「のぼうの城」のロケ地として選ばれている。湖沼が点在する「平木沼湖沼群」のようなロケに適した場所も多く、広大な土地は壮大なセットの建設や特撮も可能としてPRしている。苫小牧市の木の花「ハスカップ」の原生種がある苫東。保存に向けた検討も進む。
企業の立地や操業が進む中で、地域と共に歩み続けている苫東。工業団地という特性もありながら、市民の身近な存在になるような努力を続ける。それは終わりのない取り組みだ。
(終わり)
(この企画は酒井昭が担当しました)