時は流れて

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  • 2024年9月16日
時は流れて

  吉田拓郎さんが当時リスペクトしていた南沙織さんのことを思い、書いた曲に「シンシア」がある。かまやつひろしさん(故人)と初めてデュエットして、1970年代にヒットした。こんな詞だ。〈なつかしい人や 町をたずねて 汽車を降りてみても 目に映るものは 時の流れだけ 心がくだけてゆく〉

   先日、所用で久しぶりに故郷の苫小牧に帰り、電車を降りて駅前通りを歩いた。平日の日中、国道まで一人もすれ違わなかった。高校時代にバンド仲間らと毎日のように通っていた楽器店も消え、郊外に移転したその店も10月末で閉店することをニュースで知った。20代の駆け出し記者時代、大揺れの錦町再開発を取材で歩いた熱気もない。「シンシア」の歌詞のように〈時の流れだけ〉の風景が広がっていた。ようやく再開発の道筋が見えたが、消えていった多くの店のことを考えると時間がかかり過ぎたな、と思う。

   今の取材現場は札幌。通りで偶然会った前副知事は「これから苫小牧は伸びますよ」と語った。面識のない札幌市民からも「千歳、苫小牧の時代ですね」と言われ、驚いた。千歳に進出したラピダス(東京)関連の国家プロジェクトが背景にある。この追い風をまちづくり再生への足掛かりとしたい。そう思う。(広)

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