▽被害想定を町民と共有
北海道から東北の太平洋沖にある日本海溝・千島海溝周辺で、津波リスクのある巨大な海溝型地震が発生した場合、むかわ町はどうなるか。市街地は太平洋からの津波に襲われ、自動車などが押し寄せる。波が引いた後は、多くのがれきが集積する―。このイメージを分かりやすく表現した動画を、同町は6月、ユーチューブに投稿した。「町事前復興計画」の必要性を町民に知ってもらうためだ。
道が2022年12月に公表した同地震の被害想定によると、同町は震度5強(千島海溝モデル)、最大津波高12メートル(日本海溝モデル)に見舞われる。冬季の深夜に発生し、避難率が低かった場合、死者は最大で2300人、全壊の建物は1200棟に上る。被害を最小にするには、この情報を共有し、事前に対策を講じる必要がある。
▽事前復興計画策定へ
町は23年度、道内で初めてとなる町事前復興計画の策定に着手した。災害発生時の基本的な考え方やイメージをつくることで、被災後の復興作業の進捗(しんちょく)を早め、より早く事業再開や生活再建を実現するのが狙い。大規模災害の発生前にできる対策を示す「復興事前準備計画」と復興の基本目標や手順を決めておく「復興まちづくり計画」の二つの計画で構成する。
25年3月までの策定を目指しており、今年6月には住民アンケートを実施。町情報防災対策室は「参考になる多数の意見が得られた」と話す。一方、住民の意識向上を防災面の課題に挙げ、「行政だけでできることは限られる。より多くの人命を助け、町を早く立て直すには、自助、共助意識の高揚が必要」と力を込める。
▽被災から生きる知恵学ぶ
防災意識を高める催しには「むかわ町復興応援フェスタ」(同実行委員会主催)があり、今年も8月30日、同町四季の館で開かれた。町内外から400人が参加し、講演会や研究会、防災用品や最新の通信機器の展示を通し、地域復興を考えた。
同フェスタで鵡川中学校(宮田真基校長)の3年生は、町民から胆振東部地震発生時にしたことや必要だったことを聞き取った内容について発表した。同校は19年から防災学習の一環で、3年生が地域住民から地震発生時の様子を聞き取り、9月6日に開く全校集会で発表する活動を続けている。
校内で8月28日に開かれた模擬発表後、六角明憲さん(14)は「震災当日、どのようなことをしたのか、いろいろな人から話を聞くことができた。これから何ができるか考え、今後に生かしたい」と述べた。若い世代が、自身も経験した胆振東部地震から力強く生き抜く知恵を学ぼうとする姿に、まちの明るい未来が見えた。 (終わり)
※この企画は胆振東部支局・室谷実が担当しました。