神話

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  • 2024年8月26日
神話

  食品店のコメ売り場に行くと、商品棚に品物がなく「本日完売」と掲示されていた。特売日でも見たことのない景色に、2年前に高病原性鳥インフルエンザの発生で品薄になり「1人1パックまで」と制限された卵売り場を思い出した。

   品薄の理由は、物価高の中、パンや麺より値上がりが緩いので需要が伸びた、訪日客が急増して日本食の消費が拡大した、などとされる。何にせよ「コメさえあれば何とかなる」と言われてきたのに、「そのコメがないんだって!」と言う日が来たことに不安を覚える。

   8月は在庫が最も少ない時期なので、新米が流通し始めれば、状況は緩和するだろう。ただ、この国のコメ作り農家は、コメの生産量を抑える減反政策が行われた1970年から約50年の間に、466万戸から70万戸まで激減した。減反は2018年に廃止されたが、農家が収益や後継者の不足で生産から手を引いていけば、コメの生産量は減り続け、コメ不足が慢性化する日が来る可能性はある。

   減反の発端が、私たちの食生活の欧米化で余剰米が生まれたことだと思うと、消費者としてコメの生産量を維持していくためにできることはないのだろうかと考える。「コメさえあれば」の神話は、やはり死守したい。(林)

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