自転車旅行から戻った後、自分と同じように大量の荷物を積んで走っている自転車旅行者が気になるようになった。
そんなある日、薄暗い中、1人の青年が走っているのを見掛けた。今夜はどこに泊まるのだろうと気になり、車を停めて話し掛けた。すると、まだ寝床を決めていないという。本当は私の家に泊めたかったが、異性を自宅に泊めるのでは相手も気が引けるだろうと思い、知人の男性に事情を説明して泊めてもらうことにした。その夜、旅行の話で盛り上がりながら焼き肉を食べ、彼は翌日また道内旅行へと旅立った。その彼とは今でも年賀状のやりとりが続いている。
人から親切を受けたとき、多くの人は「お返し」をしたいと思うだろう。逆に、嫌なことをされたときは「仕返し」という気持ちが頭をよぎるかもしれない。このように、誰かに何かをしてもらったりしたりしたときに、自分も何か返したくなることを「返報性の原理(法則)」という。これは国籍に関係なく、人間が抱く自然な心理と言われている。青年を泊めた話は、知人にしたらいい迷惑だったかもしれないが、私が受けた自転車旅行での親切を、違う形で誰かに返したいと思った例である。
これを苫小牧市に住んでいる留学生や外国人就労者と置き換えてみるとどうだろうか。帰国後、自国で日本人に出会ったときに、どんな「お返し」をしたいと思うか、それは、今の苫小牧での生活にかかっている。いいお返しをしたいと思えるような生活であることを願いたい。
(HISAE日本語学校校長・苫小牧)