白老町の民族共生象徴空間(ウポポイ)の中核施設・国立アイヌ民族博物館(佐々木史郎館長)に23日、樺太(現サハリン)地方のアイヌ民族の男児が身に着けたとされる装身具「ホホチリ」が、ドイツ・ケルン市のラウテンシュトラウフ=ヨースト博物館(RJM)から寄託された。同民族博物館によると、ホホチリとみられる現存資料は、世界的にも北海道博物館の1点に次ぐ2例目。いずれも道内での保管、所蔵となる。
ホホチリは、国立アイヌ民族博物館の職員田村将人さんの寄稿文などによると、ビーズで小さな三角形に成形されたもの。男児が前髪を残して頭部をそり上げた額に、前髪から垂らすように着けていた。自力で小鳥などを弓矢で捕れるまで成長すると切り落とされ、世界的にも現存例はまれという。
一方で、幕末期の探検家、松浦武四郎の記録「竹四郎廻浦日記」(1856年)には女児に着けたとあり、北海道博物館所蔵の資料には成人女性がかぶった冠に縫い付けられていた例もある。このため実態に関する詳細な研究成果が待たれている。
寄託された装身具は、縦5・2センチ×横4センチ。ドイツの骨董商人が1907年に樺太(当時)で入手し、RJMが同年購入した。謎は多いが、保存状態は良い。道内では98年にアイヌ文化振興・研究推進機構が展示事業の工芸品展のため借用し、当時のアイヌ民族博物館(白老町)で公開されている。
国立アイヌ民族博物館の学芸員らは、RJMで2019年に装身具を含む関連資料を調査しているほか、RJMが21年11月から22年2月まで開催した特別展に協力しており、両博物館が関係を深めていた中で、今回の寄託が実現した。
この日、RJMのアジア担当部長アナベル・スプリンガー博士が同民族博物館を訪れ、ホホチリについて職員約50人に講話。「資料の歴史的な位置付けやどんな文脈で使われてきたかなど一緒に解明していきたい。今回の寄託が貢献の一歩となることを願う」と語った。
所有はケルン市で、寄託は1年ごとの自動更新だが実質無期限。同民族博物館の佐々木館長は「樺太アイヌの皆さんが資料に触れやすくなった。通過儀礼について説明する上で貴重な資料だ」と述べ、年度内にも公開時期を明らかにする考え。
(平凡社発行「アイヌのビーズ 美と祈りの二万年」に掲載)