「いかにして”身軽な”旅にするか」

  • 内山安雄の取材ノート, 特集
  • 2024年8月23日
「いかにして”身軽な”旅にするか」

  アジア各国を経て、パリオリンピックの直前にフランスに降り立ち、目下ヨーロッパを周遊中だ。そこで旅の携行品の話をしよう。

   海外を一定期間取材して歩く時、携行品一つ一つの重さにとても神経質になっている。100グラムどころか、時には10グラムでも軽いものにしようというのだから、周りには異様なこだわりに映っているようだ。

   たとえば仕事用に持ち運ぶパソコンにしても、同じモバイルでも、より軽量なものを選ぶようにしている。付属品として欠かせない電源アダプターも、いかに軽くて小さいかが選択の基準になる。撮影仕事で使う本格的なデジタルカメラも、性能よりも重くないことを優先して決める。筆記用具の数々も、いかに軽くするかに腐心している。衣類にしても、少しでも軽くてかさばらないものを選ぶのはいうまでもない。

   はては必需品の拡大鏡や爪切り、老眼鏡などにしても、1グラムでも軽いものを持っていく。何から何までこんな具合で、海外での長期取材にはひたすら軽量なものを、と常に心がけている。

   事情を知らない人たちによく揶揄(やゆ)される。

  「そこまでこだわるのって、ちょっとヘンだろう?」

   だがこれには重大なわけがあるのだ。

   かつて長編小説『樹海旅団』の取材のため、フィリピン最南端に位置するスルー諸島の孤島で、反政府イスラムゲリラ組織に従軍したおりのこと。

   7人のゲリラ兵士と一緒にジャングルの奥深くを5日間にわたってさまよう。炎熱地獄に耐えかねて歩行に支障をきたした私は、重すぎるカメラ機材のうち、望遠レンズや三脚などを次々と山中に捨てるしかなかった。

   さらにユーゴスラビア紛争で従軍取材をやった時には市街戦に巻きこまれ、泣き叫びながら逃げ回る。かついでいた荷物の重かったこと、邪魔だったこと。この戦闘で大きな荷物を最後まで離そうとせず、逃げ遅れた知り合いのジャーナリストが狙い撃ちにあって命を落としている。

   もうそういった危ない取材はたぶんやらないだろう。が、最近の海外旅行では出たとこ勝負で泊まるところを探すことが多いので、重い荷物はやはり厄介そのもの。疲れが倍増しかねない。よって荷物をいかにして軽くするか、それが私の旅行にとって何よりも大切なことになっている。

   ★メモ 厚真町生まれ。苫小牧工業高等専門学校、慶應義塾大学卒。小説、随筆などで活躍中。「樹海旅団」など著書多数。「ナンミン・ロード」は映画化、「トウキョウ・バグ」は大藪春彦賞の最終候補。浅野温子主演の舞台「悪戦」では原作を書き、苫高専時代の同期生で脚本家・演出家の水谷龍二とコラボした。

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