自転車旅行(下) 五十嵐(いがらし) 啓子(けいこ)

  • ゆのみ, 特集
  • 2024年8月3日
自転車旅行(下) 五十嵐(いがらし) 啓子(けいこ)

  「えー! 北海道から自転車で来たの?!」と言われたいという不純な動機で始めた自転車旅行は、苫小牧市から室蘭市、そして海を渡って青森県へ向かうところからスタートした。計画当初は、東京の友人宅に向かう予定だったが、大型トラックが自分の脇すれすれを走るような道路状況で、これでは気がめいってしまうと思い、東北6県を巡る計画に変更した。

   1日100キロ近い道のりをひたすら走った。その道のりは険しく、焦げるような太陽の日差し、刺すような雨の冷たさ、自転車が進まないほどの風の強さなど、日常生活では味わえないさまざまな自然が感じられた。

   それだけではない。旅先では、一期一会の出会いがあり、さまざまな親切を受けた。岩手県では、地元のおばあさんが、「これ食べて頑張れ」と言って、自分の畑で収穫したばかりのトマトを渡してくれた。新潟県の道の駅では、こわもてのトラック運転手さんが「これでうまいもんでも食え」と言って1000円札を私に握らせた。ノーメークで全身黒光りするほど日焼けしていた私は、当時30歳を過ぎていたが、少しだけ若く見えたのかもしれない。他にも書き切れないほどの親切を受けた。

   自転車旅行では、不便を楽しむ感覚や、人の温かさを改めて感じる貴重な体験をすることができた。そして、この経験は苫小牧市に戻ってからの私に大きな影響を与えた。

   その話は、また次回の「ゆのみ」で。

  (HISAE日本語学校校長・苫小牧)

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