呼吸を合わせる

  • 土曜の窓, 特集
  • 2024年5月4日
呼吸を合わせる

  ラジオで天気を伝えるときに、まず一つ壁と感じたのが、「呼吸を合わせる」というところです。何気なくラジオで天気コーナーを聴いていると、パーソナリティーの方と気象予報士が同じ空間で話しているように聞こえるかもしれませんが、それぞれ別々の場所にいて、回線をつないで話している、ということが多くあります。

   もちろん、局や番組にもよりますが、事前に打ち合わせがない番組も多く、どんな会話の流れになるか、ふたを開けてみないと分からないことが多々あります。そのため、相手の話終わりを、身振り手振り顔の表情から読み取る、ということができません。

   そこで必要になるのが、「回線を通して聞こえてくる声だけで、相手の話終わりを察する」という能力です。電話と同じ状況と言われれば確かにそうなのですが、パーソナリティーの方が話す内容を理解し、次に自分が話す内容を考え、新しい情報が入ってきたら整理しつつ、会話がかぶってリスナーの方の耳障りにならないよう相手の話終わりのタイミングを意識する、というのは電話とは違った緊張感があります。

   また、相手の方の話終わりは、必ずしも疑問形ではなく、「いやー、きょうは暖かくなりましたね!」という感じで、その後も話が続きそうな雰囲気の場合も考えられます。諸先輩方に「話終わりはどのように判断するのですか?」と、ラジオデビュー前の研修時、尋ねたことはあるのですが、どなたからも「察することができるようになる」と返答があり、当時はがく然としたものです。

   確かに、回を重ねるごとに、察することができるようになり、徐々に呼吸を合わせて会話できるようになるのですが、パーソナリティーの方の話す内容に集中するために、事前に話す内容を予想しておくことはとても大事です。例えば、この時期ですと、大型連休の天気はほぼ聞かれるだろうと考えて、連休中の天気傾向をまとめておいたり、連休中はしばしば峠で雪が降るので、車での移動に冬タイヤが必要になるかどうかも、あらかじめ考えておいたり、桜の見頃が残っている地域では、いつ頃まで桜が持つか、雨風の強まりそうな日を入念に確認しておいたりするわけです。

   ラジオでの気象解説に慣れるまでにも、それ相応の時間がかかるのですが、ラジオで話し始めた2カ月後にはテレビで気象解説をすることになりました。

  (続く)

  (気象予報士)

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