誇りと輝き

  • 土曜の窓, 特集
  • 2024年4月27日
誇りと輝き

  穂別に来て2年がたった。町の様子もだいぶ分かってきたし、診療後に会っておしゃべりする友達もできた。「そろそろ何かやりたいな」と思っていた時、一つの出会いがあった。

   診療所に通う小山タエコさん。84歳でひとり暮らしの彼女は、診察の場面で体調や生活について尋ねている時に、ぽつりと話した。

   「私はアイヌなの。昔、アイヌ式の結婚式をやったのよ。その映像も残ってる」

   「え、それ見たい!」というごく個人的な関心から始まり、1971年に製作された記録映画「アイヌの結婚式」の上映会の企画へとつながり、この21日に穂別町民センターで約100人の観客を集めて開催された。もちろん、タエコさんも一緒だ。

   スクリーンに映し出されたのは、半世紀前のタエコさん。当時はアイヌへの偏見、差別がはびこっており、自分がアイヌであることを隠していた人も多く、アイヌ古来の結婚式を挙げる人など誰もいなかったという。その中で「どうしてもやりたい」と、タエコさんは静かに準備を進めていく。

   誰もが「どうなることか」と心配したが、結婚式の当日、アイヌの民族衣装に身を包んだ新郎新婦が三三九度に当たる「めし食いの儀」を行い、火の神に祈って酒を交わし合う頃には、全道から多くのアイヌが集まってきた。そのあとの祝宴はアイヌの歌や踊りで大いに盛り上がった。

   スクリーンをじっと見詰めていたタエコさんは、「懐かしい」と漏らしたり、そっと涙を拭ったりしていた。「高血圧や膝の疾患で通院している高齢者」とはまったく違う、誇りと輝きが表情からあふれている。

   今回のイベントはたまたまタエコさんやその記録映画との出会いがあって実現したことだが、ほかの人もみな同じだと思う。今はたとえ「からだの自由が利かない高齢者」でも、その人にはそれまで生きてきた歴史があり、さまざまな思い出がある。「こんな経験をしたのよ」と語りたいことは誰にだってたくさんあるはずだ。

   上映会まではいくつかのハードルもあったが、やってよかった。これからも、穂別に暮らす人たちの人生を再発見する企画をやっていきたい。3年目の穂別も楽しくなりそうだ。タエコさん、本当にありがとう。

  (むかわ町国保穂別診療所副所長、北洋大学客員教授)

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