新聞記者

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  • 2024年4月26日
新聞記者

  その人は駆け出し記者時代、こんな記事を書いた。〈○…「カゼをひかないよう、交通事故にあわないよう」との校長先生のお話もウワの空です。だってあすから夏休みですから○…ところでお天気ですが梅雨前線が弱まっているので梅雨はなし崩しに明け、二、三日後には本格的な夏が来るそうです。どうぞ元気で〉

   元読売新聞社会部記者だった本田靖治さん(故人)が、明日から小学校が夏休みに入るので、どこかへ行って写真を撮ってこいと命じられ、書いた記事だ。提稿を受けた当番デスクは「小学生のつづり方みたいな原稿を書きやがって」としながらも「いろいろいうやつはいると思うが、これはこのままのせるとしよう」。ノンフィクション作家、後藤正治さんが本田さんの生涯を描いた大作「拗ね者たらん」(講談社)で、そんな場面が出てくる。新しいスタイルを試みた若輩者の挑戦を、たしなめるでもなく正面から受け止めてくれたデスク。本田さんは職場の豊かな可能性のように思えたそうだ。

   同業他社の若手から時々なぜ記者を志し「辞めずに続けられたのですか」と聞かれることがある。本田さん同様に、何者でもない若者を引き立ててくれた慈愛ある先輩記者の顔が浮かぶ。花曇りの札幌で、そんな遠い昔を思い出した。(広)

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