家人の操作する車いすに乗って大きな病院の中を移動することがある。つえを使っての歩行も可能だが、他の歩行者、特に速度の違う子どもとの衝突や転倒が怖い。名前を呼ばれ「ゆっくりでいいですよ」とは言ってくれるものの医師や看護師さんを待たせるのも申し訳ない。
夫婦、親子、祖父母と孫―。院内にはいろいろな間柄の人たちが、押したり引いたり、ブレーキを管理する車いすが動いている。自分は操作を学習する機会もないからタクシーから乗り移る時、一歩目の足をどこに置けば安心か知らない。カーブで椅子席の人のつま先をタイヤでひきそうになったり、壁や柱に接触したり、傾斜路の近くでブレーキをかけ忘れたりしながらの移動になってしまう。
老老介護。誰かのことと思っていた四字熟語の世界が自分のことになった。神奈川県であった事件のことを思い出す。脳梗塞で半身不随になった妻を40年間、介護した夫が、親族から施設入所を勧められ「2人で死んだ方がいい」と殺害を決意、妻を車いすごと漁港に突き落とした。昨年7月、82歳の夫への裁判員裁判の判決は懲役3年の実刑。求刑は懲役7年。判決は妥当か。自分の判決は、まだだ。車いすに乗った妻をなじる夫の声が待合室に聞こえた。つらいものだ。(水)