たえて桜の

  • 土曜の窓, 特集
  • 2024年4月20日
たえて桜の

  期せずして、旅先で出合う桜ほど、心躍るものはない。

   今年最初の桜は、鹿児島県の中央部を流れる天降(あもり)川のほとりに咲く枝垂れだった。3月22日、すでに盛りは過ぎ、薄いピンクの花弁がはらはらと舞う。

   ここは、イザナギとイザナミが最初に産んだ不遇の子ヒルコ(蛭子)を療養のために船で流し、たどり着いたとされる神代からのいで湯の里。天降という名の通り、天孫降臨の”核心”に違いないと、前から訪れるチャンスをうかがっていた。温泉好きの西郷どんが通い、竜馬とおりょうが日本初の新婚旅行に訪れた島津の奥座敷でもある。桜島を一望する城山のホテルで開かれた業界団体の会議を早々に切り上げて、足を運んだかいがあった。

   3月30日、寒の戻りで京都の桜はどれもつぼみ。でも、もしかしたらと思いたち、出張先の烏丸御池のホテルを朝早く抜け出し、近くの六角堂(頂法寺)まで歩を進めた。

   ただでさえ狭い境内がインバウンドの群れですでにごった返していた。なんと!ここの枝垂れは八分咲き。おびただしい数のスマホを向けられて、桜がなんだか照れくさそう。ここは聖徳太子のお告げで、悩める親鸞が法然の元へと走るきっかけをつくった浄土真宗の聖地。でも風流とはほど遠い喧(けん)騒だ。境内の奥にひっそりと立つ親鸞聖人の像にぺこりと頭を垂れ、この場を早々に立ち去った。

   4月11日、当社主催のテックイベント「結」開催のため、福島県浪江町のRDMセンターにいた。大安吉日。この日に決めたのは、浪江町の請戸川に咲き乱れるソメイヨシノを多くの参加者に見てもらいたかったからだ。一度は諦めかけた開花。だが、数日前から急に暖気が戻り、一気に満開!狙い通りだ。

   翌日、業界の仲間たち40人を引き連れて東京電力福島第1原発の視察に訪れた。ガイガーカウンターを着け、厳重なセキュリティーを経て、水素爆発した1号機の前までバスで移動する道すがら目に飛び込んできたのは、これ以上ない満満開のソメイヨシノ。汚染水を入れるタンクを大量に設置するため、構内の樹木はほぼ伐採されたが、廃炉作業員の憩いのために主要道路の桜並木だけは切らずに残されたという。未曽有の事故の現場に咲くからか、その美しさは格別だった。

   5月1日、私たちは静内(新ひだか町)に行く。創業の地である静内の構内には、当家の出身である金砂郷(茨城県常陸太田市)の古社、西金砂神社よりご遷座した北山王金砂神社がある。会社の守り神である北山王さんの大神様に二十間道路までみこしでご動座いただき、一直線に7キロ続くエゾヤマザクラを一緒にめでる歓桜祭を毎年開いている。

   今年は早いと23日に定めた祭の日取りだが、寒の戻りで5月1日にセットバック。そうしたら異常な暖気の到来だ。当日は葉桜を眺めることになりかねない状況。

   世の中にたえて桜のなかりせば

   春の心はのどけからまし

  ほんと、在原業平の言う通りである。

  (會澤高圧コンクリート社長)

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