平取町二風谷の萱野茂さん宅を訪ね、アイヌの歴史や文化のことを教えていただいたのは、40年ほども前のことだ。執筆や調査で忙しいのに、奥さんと一緒にいつも笑顔で迎え入れてくださった。
学者らが研究の名の下に、どんなふうに墓を荒らし、祖母たちの体に物差しを当てたのか。記憶は鮮明だった。サケ漁にまつわる話は、著作「アイヌ歳時記 二風谷のくらしと心」(平凡社新書)にある。昭和の初期の秋、家族に食べさせるサケを捕った父が巡査に連行された。父が泣き、自分も泣いて後を追った。連れ戻しにきた大人も、泣いていた―。
十勝管内浦幌町のアイヌ民族団体「ラポロアイヌネイション」が、先住権のあるアイヌには地元の川でサケ漁を行う権利があるとして、国と道に確認を求めた行政訴訟の判決が18日、札幌地裁であった。判決は「原告にサケの捕獲権があるとは認められない」と請求を退けた。
萱野さんは「歳時記」で呼び掛けている。「日本人の読者の方々よ。あなたが悪いのではないが、あなたたちの先祖が犯した過ちが、今もなお踏襲されている(略)。それを正すも正さないもあなたたちの手に委ねられていることを知ってほしい」。まるではるか以前に判決文を読んでいたようだ。どう応えるか。(水)