1 エネルギー産業で道内経済けん引 「苫東」設立から25年

  • 特集, 苫東の今 未来への展望
  • 2024年4月19日
1 エネルギー産業で道内経済けん引 「苫東」設立から25年

  苫小牧市中心部から東に12キロ。苫小牧や厚真、安平にまたがる広大な産業地域がある。総面積は1万700ヘクタール。東京の山手線内側の約1・7倍の広さだ。この苫小牧東部地域が、ものづくりやエネルギー産業の拠点として、本道経済のけん引役になっている。

   この苫小牧東部地域の工業用地を造成、分譲しながら企業誘致を進めるのが株式会社苫東(本社苫小牧市)だ。今年で設立から25年の節目を迎えるが、その歴史は紆余(うよ)曲折の物語だ。

   ■重厚長大計画の破綻

   苫東地域が最初に注目されたのは、今から半世紀前。国の総合開発計画に基づいて北海道に大規模工業基地を造成するという国家的プロジェクトとして位置付けされた。鉄鋼や石油、アルミ精製など石油化学コンビナーをはじめとする重厚長大型の産業を形成する壮大な計画だった。

   推進役を担ったのが、苫小牧東部開発会社(旧会社)。だが、中東戦争を引き金に石油価格が大幅に上昇したオイルショックで計画はもろくも崩れていく。計画は見直され、旧会社は特別清算の形で破綻する。

   この残された資産を引き継いだのが株式会社苫東。辻泰弘社長は「土地の開発と分譲、計画の円滑な推進。産業拠点をつくるという考え方は基本的に変わっていない」と強調する。ただ、産業拠点の性質は時代と共に大きな変化を遂げてきた。

   ■活況の自動車産業

   一つが自動車関連産業の進出。既に、苫東地域にはいすゞ自動車(現いすゞエンジン製造北海道)が操業。その後、隣接する苫小牧港・西港臨海部にトヨタ自動車北海道が進出する。この「大きなインパクト」(辻社長)は苫東地域にも波及。愛知県から自動車部品製造のアイシン北海道が進出。ダイナックス(本社千歳市)も苫小牧工場を操業するなど、現在は自動車関連で14社が立地した。

   自動車関連産業は裾野が広く、千歳や安平、石狩、室蘭などにも関連企業が進出し「苫小牧を拠点に本道のものづくりの広がりができた」(辻社長)ことは大きな効果だった。

   ■エネルギー拠点へ

   だが、リーマンショックや東日本大震災などで「困難な時代があった」というように、苫東の動きが鈍る。打開策は何か。苫東の強みは何か。そこで浮上したのはメガソーラー(大規模太陽光発電施設)計画だ。ソフトバンク、シャープといった大手企業の事業が持ち上がる。

   そもそも苫小牧は日照時間を含めて、太陽光発電には適した土地柄。冷涼な気候に降雪量も少ない。加えて苫東は平たんで広大な敷地を用意できる。東日本大震災でエネルギー政策の見直しが進む中、「エネルギー分野でも先駆的な」(辻社長)動きが続いた。

   苫東の歴史は北電の苫東厚真発電所、石油備蓄と化石燃料から始まる。時代は変わり、臨海部でバイオマス発電の建設も進むなど今では温室効果ガス排出をゼロにするカーボンニュートラルに向けたエネルギーの重要な地域に成長した。

   ■立地好条件

   苫東は立地条件の良さでも企業を呼び込んだ。大手医療機器製造のカネカは、原料調達で苫小牧港を使え、付加価値の高い製品は航空を利用できる利便性に着目した。新千歳空港まではわずか20分の距離だ。こうした物流に注目したのは、蒸留所を新設中のベンチャーウイスキーもそうだ。物流はものづくりの鍵を握るといっても過言ではない。

   太平洋側と日本海側の両ルートを持つ苫小牧港(東西両港)と新千歳。物流拠点としての苫東。この強みは揺るがない。

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   大規模なデータセンター(DC)の計画などでも注目される苫小牧東部地域。多様な企業が立地するものづくり拠点の今と、未来を探る。毎月第3金曜日に掲載します。

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