福井市愛宕坂(あたござか)茶道美術館が5月12日まで開催している特別展で、白老町緑丘の大須賀るえ子さん(83)が手掛けたエント(ナギナタコウジュ)のお茶が展示されている。同美術館の学芸員が2022年に来町した際に縁が生まれ、大須賀さんは「エント茶を見た人が白老に興味を持ってくれれば」と笑みを浮かべる。
特別展は、同美術館の開館25周年と北陸新幹線福井(敦賀駅)開業記念となる「日本茶々茶(ちゃちゃちゃ)お茶紀行 幻の茶を訪ねて」。高知県大豊町特産の碁石茶(ごせきちゃ)や長野県天龍村の中井侍(さむらい)茶、福井県越前市の味真野(あじまの)茶など全国各地の珍しいお茶9種類を集め、茶道具などとともに紹介している。
エント茶はこの中の一つに取り上げられた。エントはナギナタコウジュのアイヌ語で、町内に生えるシソ科の一年草。日当たりの良い原野などで自生し、乾燥させた穂や枝には利尿、発汗効果があるとされる。アイヌ民族は、強い香りが病魔を遠ざけると考え、お茶やかゆの香り付けに使っていた。
大須賀さんは、エント茶を作る町内の女性グループ「ポロトの母さんの会」の代表で、15年近く活動している。同美術館の学芸員高島礼さん(52)は特別展を控え、22年11月に来町。「エント茶について深く伝えたい」と大須賀さんの案内で自生地を見学し、製造工程の説明を受けたり、手摘みを体験したりした。
特別展の会場では乾燥した葉の実物や自生の様子が分かる写真パネルなどを展示しており、高島さんからは3月25日、会場内の写真や特別展の展示内容を紹介した冊子(A5判、18ページ)3冊が送られてきた。冊子に寄せた文章の中で、高島さんはエント茶について「飲んだときに鼻に抜ける香気が大変よく、後口のさわやかなお茶だった」と振り返っている。
大須賀さんは「私たちの活動が本州で発信されたことは光栄。旅にちなむ特別展なので、展示を見た人が白老を旅し、エント茶を口にする機会が生まれればうれしい」と静かに語った。