営業運転する列車で国内最古の蒸気機関車がけん引する「SL人吉」が23日、ラストランを迎える。101歳の車両の整備を15年にわたり担当してきたJR九州の山田恭輔さん(42)は「年上だが、わが子のような存在。最後まで無事に走らせたい」と語る。
2004年に清掃員として入社した山田さん。もともと物作りや機械いじりが好きで、列車整備の仕事があると知り、勉強の末に技術を習得した。SLが動く姿は見たことがなかったといい、力強く蒸気を吐き、黒光りする姿を目の当たりにして「すごくかっこいいというのが一番だが、これを整備できるのか不安もあった」と振り返る。
電車や気動車も担当するが「SLは特別で、誇り」だった。「ハチロク」(8620形)の愛称で知られる車両は1922(大正11)年製造で、交換用の新しい部品は残っていない。苦労の末に修理しても「すぐ機嫌を損ねる。同じ整備をしてもうまくいかない」という、最も手のかかる車両だった。
それでも、古い資料を読み解きながら学んだ技術で丁寧な整備を続け、老朽化による2度の引退や、熊本豪雨による運転区間の変更なども乗り越えた。しかし、運転や整備に携わる人材確保が難しくなり、今年度での引退が決まった。
2月に熊本車両センターで行われた最後の定期検査では、車輪を動かすピストンをハンマーでたたいて音を確認し、蒸気を発生させる心臓部のボイラーを念入りに点検した。山田さんは「むちゃさせているが、手さえ加えてやれば、まだ10年や20年は走れる」と笑う。
23日は熊本―博多間を往復。24日に八代駅で運行終了式典を行う。「長い間お疲れさま」と声を掛けるつもりだが、「またよろしく頼む」と3度目の復活をひそかに望んでいる。