東日本大震災をきっかけに、各地で被災地の絵を描き続けている画家がいる。埼玉県出身で、今は岩手県奥州市に住む鈴木誠さん(51)。「映像や写真は一瞬を切り取るが、絵の方が人の心に伝わる」と考え、今は能登半島地震の被災地で目にした惨状をキャンバスに刻んでいる。
もともと画家になりたかった鈴木さんは大学を卒業後、商社勤務やデザインの専門学校を経てプロの画家に弟子入り。2011年3月に東日本大震災が起きた際、「何かできることはないか」との思いから、被災地を絵で記録する活動を始めた。16年の熊本地震でも現地入りするなど、これまでに描いた作品は200枚以上に上る。
当初は「被災者を傷つけるのでは」との葛藤もあったという。しかし、広島の被爆の惨状を描いた画家丸木位里、俊夫妻による連作「原爆の図」や、ピカソの大作「ゲルニカ」のような絵には映像や写真よりも伝わるものがあると感じ、以後13年にわたって災害の記録をテーマとしてきた。
能登半島地震では、大規模火災で焼失した石川県輪島市の観光名所「朝市」など、被害を象徴するような場所を描いている。3月上旬、珠洲市のがれきの中で絵筆を走らせていた鈴木さんは、現地で実際に見た光景に「がくぜんとした」と話す。「東日本大震災と熊本地震の被災地を同時に見ているような感覚だ。被害が全国にうまく伝わっていない」と語気を強める。
クラウドファンディングで資金を募りながら、能登半島の被災地を巡っている。「被災者に訴えかけるような『心の記録』になれば、50年、100年たっても伝わるものがある」。そう信じて、絵筆を動かし続ける。