能登半島地震の被災地を観光面から支援する「北陸応援割」が16日から始まった。しかし、寒ブリで知られる富山県氷見市のある民宿では、開始前から入っていた通常の予約が、割引目当てで相次ぎキャンセルされる事態に。おかみは「割引目的だけで訪れるのではなく、優しい気持ちも持ってもらえれば」と話している。
目の前に広がる富山湾と、地下1200メートルからくみ上げた茶褐色の温泉が人気の民宿「あおまさ」。約50年前に祖父(88)が始め、昨年4月に孫の青木栄美子さん(34)がおかみに就いた。
地元では民宿で宴会を開く慣習があり、年明け以降はこうした新年会や、寒ブリ目当ての旅行客から多くの予約が入っていた。書き入れ時を目前にした元日に地震が発生。氷見市内は最大震度5強で、宿の建物に大きな被害はなく、2日後には水道も復旧した。
1週間足らずで予約受け付けを再開したところ、寄せられたのはほとんどがキャンセルの電話だった。「地震直後の宴会は不謹慎」「余震が怖くて行けない」。1月中の宴会や宿泊予約は8割が取り消しに。市内全体での断水解消後も状況は好転せず、2月分の利用は予約の半分程度にとどまった。
さらに、今月8日に予約が始まった応援割で割引対象とならない既存の予約のキャンセルが続いた。応援割の利用客は10組程度にとどまり、「大量キャンセルをカバーできるほどではない」。
適用条件を確認するための電話もこれまでに数百件寄せられ、通常業務に支障を来すことも。青木さんは「どこの宿泊施設も疲弊している。割引目的だけでなく、優しい気持ちで北陸を訪れてほしい」と語った。