1里(約4キロ)や2里を歩くのは当たり前の時代に育った。1里を1時間で歩くことができればほぼ一人前だったと思う。速い乗り物への憧れは強く自転車に始まり、やがて自動車を乗り回した。
自動車を初めて運転したのは17歳の頃だ。もう時効だろうから書くが、親戚が小さな乗用車を購入してわが家へ遊びに来た時、黙って鍵を貸してくれた。砂利道を数百メートル、超低速で走らせてみた。動いた。数年後に就職した会社の最初の仕事は自動車学校で免許証を取得することだった。もうマイカーブームは始まっていた。以来、半世紀が過ぎてブームの実動部隊は老い、高齢者の事故の防止対策や免許証の返納による安全確保が自動車周辺の話題の中心。返納は東京で高齢運転者(当時87歳)が暴走事故を起こした2019年に急増したが、増減はあるようだ。この間、道東で幼児や高齢者が犠牲になる事故が相次いだ。きのうは東京地裁で19年の事故の運転者らに、1億4000万円余の賠償金支払い命令。また悩む人が増えているのかもしれない。
「私はきっぱりやめました」。返納の先輩に何度も言われた経験がある。通院や買い物はどうする。バスもタクシーも公共交通はやせ細るばかり。考えることは多い。徒歩の時代への帰り道―。(水)