関東大震災直後、香川から千葉を訪れた行商団が朝鮮人と疑われ自警団に殺害される事件があった。犠牲者は幼児を含む9人。「朝鮮人が略奪、放火した」といった流言が広がる中での惨劇だった。
先月公開された映画「福田村事件」は地元でタブー視されてきた事件を地域誌の元編集者が掘り起こし、まとめた史料書籍が原作。極論や同調圧力の怖さを問い掛ける。10年前に書籍化後絶版を経て6月に増補、再版された。集団になったとき、1人ではできないことをやってしまう構図は今も同じ。不安の裏返しで個人、グループを攻撃対象にする。ネット上での中傷も時には人を死に追いやる。
この手の取材は拒否されたり、「蒸し返すな」と当事者の一部から激しい抵抗に遭ったりすることがしばしば。それでも活字で残す意義は何か。100年前の事件の教訓は?。歴史に埋もれた事実に踏み込んだ史料書籍の価値は大きい。
大衆社会論の歴史は古く、文献も多い。19世紀末の仏心理学者ギュスターブ・ル・ボンは群衆心理が為政者やメディアによりたやすく扇動されてしまうことに警鐘を鳴らした。世間通のコラムニスト山本夏彦氏は「古(い)本を読むことは死んだ人と話をすること」と述べた。歴史に学びたい。27日から読書週間。(輝)